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吾輩は猫である。名前はまだ無い——そう語り出すのは、一匹の風変わりな猫。ある日、英語教師・苦沙弥先生の家にまぎれこんだ吾輩は、そのまま居着いて、人間たちの暮らしを毎日ながめて暮らすことになる。胃を病んでばかりの気むずかしい主人、その家に出入りする美学者の迷亭、若き理学者の寒月、そして近所の実業家一家。彼らは集まっては、難しそうで実はばかばかしい議論をたたかわせ、見栄を張り、恋に悩み、けんかをする。猫の鋭くも飄々とした目を通して見れば、えらそうな人間たちの暮らしは、おかしくも哀れで、どこか愛おしい。明治の世を生きる知識人たちの滑稽と虚栄を、ユーモアと風刺たっぷりに描き出す、近代日本文学を代表する名作。人間とは何か、賢さとは何かを、一匹の猫がのんびりと問いかける。
吾輩は猫である。名前はまだ無い。 どこで生まれたのか、とんと見当がつかない。なんでも薄暗いじめじめした所で、にゃあにゃあ泣いていたことだけは覚えている。吾輩はそこで、はじめて人間というものを見た。あとで聞くと、それは書生という、人間のなかでもいちばん乱暴な種族だったそうだ。 この書生というものは、ときどき吾輩たち猫をつかまえて、煮て食うという話だった。けれど、そのときはなんという考えもなかったので、別段おそろしいとも思わなかった。ただ、彼の手のひらに載せられて、すうっと持ち上げられたとき、なんだかふわふわした、たよりない心持ちになっただけである。…
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